「まぎれもない才能を感じる。」
作者は思慮深い、親切な”案内人”に違いあるまい。そして「歴史」という、すでに答えが出ているはずの世界。なのだけど、あれ……?読者は一体どこに、連れていかれてしまうのかな?
引用:『チ。-地球の運動について-』(第1集 表紙帯)
『寄生獣』『ヒストリエ』岩明均、絶賛。
すでに答えが出ているはずの世界。それがいま、であれば『チ。-地球の運動について-』の世界は答えが出るまでの世界でしょ。

そんな単純ではないんです

この世界は、本当に動いているとしたらどうだ?
引用:『チ。-地球の運動について-』(第三集 p76)
渡邊渚氏もこの作品の大ファンだそうです!
Who are you? ~どんな内容?
59冊目は『チ。-地球の運動について-』【全8巻】(小学館)でございます。
著者は魚豊氏。1997年5月29日、東京都出身。魚豊という名前はペンネームです。ご自身の好物である鱧(ハモ)に由来。へんとつくりを分けて表記しています。
物語は15世紀(前期)。P王国某所から始まります。そして主たる宗教はC教。

ポーラン…
しっ


キリス…
異端審問官呼ぶぞ

硬貨を捧げれば、パンを得られる。税を捧げれば、権利を得られる。労働を捧げれば、報酬を得られる。
なら一体何を捧げれば、この世の全てを知れる――?
引用:『チ。-地球の運動について-』(第1集 p1~2)
物語はC教公認の『天動説』に背く、異端思想である『地動説』を軸に展開します。

それがコペルニクス的転回…
終わっちゃうだろ話が

『チ。-地球の運動について-』の世界では、この異端という言葉が頻繁に出てきます。分かりやすく言うと、犯罪と同じようなニュアンスです。当時は現代日本人が想像も出来ないほど、思想の自由がなく、少しでも関心をもち研究するだけで、拘束、拷問し改悛を迫られ、二度捕まると確実に死刑(火あぶり、縊首等)となります。
つまり「地球は動いている、廻っている」と考え、口にしたら爪をはがされ、指を潰され、失明させられ…

おい宗教ハラスメントだろ!コンプライアンスはどうなってるんだ!
そんな世界じゃないんだって

そんな時代に生きた『地動説』に魅せられた人々。そしてそんな異端思想を取り締まる、異端審問官とのやりとり。あまりにも縛りがある社会。そんな世界で登場人物たちは様々な思いを秘め、夜空を見上げます。
北極星、オリオン、いて座、火星…そして星座全般!

でも 殺されちゃうかもしれないのに なんでそこまでして『地動説』にこだわるの?
信念ってやつだ。
信念?
そうだ。コレがあれば不安に打ち勝ち泣きやめる。
引用:『チ。-地球の運動について-』(第6集 p81)
セリフの一つ一つが胸を打つ。読めば人生が廻り始める。今さらですが、今回は『チ。-地球の運動について-』です!
I like you! ~紹介する理由

ところで

こんな記事が最近出てましたね。

逮捕ねアータも
物騒なこと言うな

というわけで、ネタバレではない形で私は皆様に感動を生き残らすことにします。
キャラクターの目
綺麗なんですよ。どのキャラクターも、目が。特に天体を眺める時の目。中には朝日を眺める、そんな目も出てきますが、天体を通じ、そこには確かな感動と興奮と好奇心が宿っています。
目は口ほどに物をいう。魚豊氏。すごい。
派遣異端審問官 ノヴァク
この男が出て来た時の絶望感。ハンターのネフェルピトーに覚えた、あの感情を抱きました。どこか滑稽な様に傭兵上りの強さ。彼が出て来ると死の臭いが漂い始める。先に述べたキャラクターの目で言うと、唯一綺麗じゃない目です(失礼)。
個人的には時折流す、ノヴァクの汗が好き。
ノヴァクの汗の理由を、私は終盤のある場面で読み取りました。そして彼もまた「信念」の持ち主だった。
3つの「チ。」
ところで「チ。」ってなに?そら、決まってるでしょ地球の「チ。」でしょ。

チッチッチッ
甘いな

おお チが3つ
くだらないよ!

この3つの「チ。」がそれぞれの信念の一部です。
Line up ~全巻紹介
『チ。-地球の運動について-』(第1集)
ラファウVSノヴァク!第一ラウンド!
ラファウの感動と予期せぬ展開!第1集は作中の世界観を凝縮したような1冊!ここから第2集の中盤までが「第1章」です!
ちなみにこの表紙、すごいんですよ。これ、ラファウだと思うのですが、首を吊られているのにアストロラーベで星を観ている。いや、観ているのは星ではなく、他の何かかもしれない。
この表紙は、感動は寿命の長さより大切なもの、というラファウの言葉を、いやこの作品の世界観を表現しているのです。
『チ。-地球の運動について-』(第2集)
オクジ―とノヴァクの因縁はここから!バデ―ニ登場!物語は「第2章」へ!
『チ。-地球の運動について-』(第3集)
ヨレンタ登場!しかしその才気も時代に潰される。そんな中、オクジ―は何かを知る、ということに気づく。当たり前のような空。そして金星は満ちる。
『チ。-地球の運動について-』(第4集)
『地動説』が完成?バデ―二とオグジ―は酒場でヨレンタと祝杯を酌み交わす。そこに偶然ヨレンタの父が現れる。終盤のバデ―二とオグジ―の問答は必見!
『チ。-地球の運動について-』(第5集)
バデ―ニとオグジ―に迫るノヴァク!「地動説はまだ終わっていない」バニ―ニが仕掛けた予防策とは?そしてヨレンタにも危機が迫る!
『チ。-地球の運動について-』(第6集)
異端解放戦線。各地の審問所を襲撃、C教と対立する彼らの目的は?そして、移動民族ドゥラカ登場!物語はついに第3章!そしてあのキャラクターが25年の時を経て再登場!
『チ。-地球の運動について-』(第7集)
ノヴァク復活!異端解放戦線との戦いに異常な執念を燃やす!一方『地動説』は予想外な形で、世に出ようとしていた。その矢先、ドゥラカにも遂に追手が!
『チ。-地球の運動について-』(第8集)
『地動説』は異端じゃない?苦悩するノヴァクの前に現れたのは…。

こ これくらいなら逮捕されませんよね
異端審問官に捕まったら速攻喋るタイプだなアンタ

Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ
文字はまるで奇跡ですよ。
引用:『チ。-地球の運動について-』(第3集 p175)
私が個人的に好きなのは、オグジ―とヨレンタとドゥラカです。この3人は『チ。-地球の運動について-』の中でも少々異質です。
地球が今この瞬間も動いている。口にすることも咎められた時代に、その感動のためだけに命を捨てたキャラたちの中で、この3人は「地球が動いている」ことのほかに信念を抱き、各々の感動のためにまた生き抜きます。
特に第3集のオグジ―に対する、ヨレンタの文字に関する言葉は良かった。
地球が動くのも奇跡だが、文字は時間も場所も超越する。これもまた奇跡である。
そしてドゥラカ。文字と、あの当時の偉大な発明により、私が愛してやまない本が誕生した。そして本は今日も私に新たな感動をもたらしてくれます。
そしていま、こうしているなかでも…
地球はゆっくり動いている。
なんて漫画だ

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