冒頭にてお詫びです。
過去の書評にて、花田菜々子さんの名前を一部、間違った漢字で公開しておりました。
大変失礼いたしました。
The first one is ~まずは1冊目
私はここぞというときの、とっておきの2冊で勝負することにした。
「1冊目はこれです。ラッタウット・ラープチャルーンサップというタイの作家による『観光』という本です」
引用:「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(p174₎
名作「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」の作中で、著者の花田菜々子氏が喫茶「へそまがり」のイベント(へそまがりの店主に本をプレゼンし、店主が一番読みたくなった本がグランプリ)に参加されるくだりで…
ちなみにこの本の55秒はこちらです。
花田氏がおすすめされた、1冊目がこちら!

1万冊を読まれた方がすすめる本とはどのような内容なのか?
さあ、とっておきの1冊目
まいりましょう!
Who are you? ~どんな内容?
43冊目はこちら。「観光」(早川書房、2010年8月30日発売)です。
著者はラッタウット・ラープチャルーンサップ氏。1979年にシカゴで生まれ、タイのバンコクで育つ。タイの有名教育大学とニューヨーク州イサカに本拠地を置くコーネル大学で学位を取得。ミシガン大学大学院のクリエイティブ・ライティング・コースで創作を学び、英語での執筆活動を始める。本書はデビュー作。
「これはタイが舞台になっていて、貧困の中で生きる人たちの日々を瑞々しく切り取った本当に美しい短編小説です。悲しい話が多いのですが、それでも懸命に今を生きる人の姿がきらきらと心に残り、さわやかな希望を感じるような作品です。(以下略)」
引用:「出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと」(p174₎
本書には7つの短編が収められています。

あらすじです
ガイジン
アメリカ人のマーシャル・ヘンダーソン軍曹。これが主人公のぼくの父親。ある年のぼくの誕生日に軍曹は、クリント・イーストウッドという名の仔豚をぼくに渡す。
「ねえ、ママ」数年経ってからぼくは訊いた。「軍曹は迎えに来ると思う?」
「ラック、軍曹のことは二度と言わないでもらいたいね」ママはタイ語で言った。「頭痛がしてくるんだよ」
引用:「観光」(p18)

この本の表紙が
クリントねアータ
カフェ・ラブリーで
4か月前に父を亡くした11歳の弟が、17歳の兄とカフェ・ラブリーという小さくて平凡な、いかがわしい店へ行く。兄弟のきずな、そして思春期特有の切ない空気がここに。
その夜、カフェ・ラブリーからの帰り、バイクに乗っているあいだ中ずっと、兄さんはぼくの腰に腕を回し、ぼくの肩に頭を載せていた。
引用:「観光」(p73)

普通 逆なようですけど
徴兵の日
ある寺で年に一度開催される、徴兵抽選会でのお話。黒い壺から赤い札を引けば二年間の兵役。黒い札を引けば免除。夕闇が迫る。ぼくと友人のウィチェの番がだんだんと近づいてくるー。
すべての手配は済みました。息子さんを抽選会によこすだけでいいんです、と。
引用:「観光」(p78)

息子ってどっち?
観光
母と過ごす最後の夏。夏の終わりにぼくは北の職業学校に行く予定である。その前にぼくは母とアンダマン諸島に行くことにした。しかし母の身に予期せぬ異変が起こる。
観光よ。バンコックの駅で切符を買うと母が言った。ガイジンになるの。観光客になるのよ。
引用:「観光」(p95)

母の複雑な胸の内が窺い知れます
アンダマン諸島はインドに
属しています

プリシラ
カンボジア人プリシラは難民だ。難民は好ましくない兆候だ、とぼくの母は言ったが、ぼくと友人のドンはプリシアと明るい夏の日々を過ごす。しかし、ある晩、プリシアの集落に火がつけられる。
「あたしたち、出ていく」ようやくプリシアは言った。「ここから出ていく。あなたたちに会えなくなると寂しい」
引用:「観光」(p147)

火つけたやつ ゆるさんぞキーッ
こんなところで死にたくない
アメリカ人の老いた男性が、タイ人の妻と結婚した息子、ジャックの家で介護を受けながら過ごす日々を描いた作品。息子の嫁や孫とのコミュニケーションに悩み、故郷を想う姿はどこかユーモラス。
「ジャック」私はもう一度言う。「家に帰りたい。こんなところで死にたくない」
「観光」(p159)
こんなところって言われるとジャックも腹立つでしょうね

闘鶏師
パパは町いちばんの闘鶏師だった。私には真新しい自転車にママには電熱器。庭には蘭の花。パパにはマツダのトラック。家には大型の高性能のテレビ。金持ちではなかったが、欲しいものは買えた時期があった。
でも、リトル・ジュイが闘鶏場に現れた日から、すべてが一変した。
「観光」(p200)


はーしれはしれ
マツダのトラック~
いすゞだよ

I like you! ~紹介する理由
数時間で一気読みしました。
全編、タイの日常が描かれているのでしょうが、読み手としては馴染みのない世界で、それこそ観光しているかのような、そしてタイにホームステイしているかのような感覚でした。

全編通じて、この日常で今後も生き続ける人々、そんな主人公たちに起こる出来事、事件にともに没入していく。文章の巧みさ、翻訳の美しさもありますが、全て一人称であるのもその理由のような気がします。
週末、あればロッキングチェアに身を沈めてゆっくり読んでいただきたい小説です。
花田氏がおすすめしていただけあって、読み応えのある、それでいて切ない感じがたまらなかった。
MVP! ~世界最優秀選手な作品!
正直もうここまでで十分紹介する理由になりますが、あと一つ本書はとんでもない称号を手にしています。

それが…
2010年4月1日から5月17日に新宿の紀伊國屋書店本店で「ワールド文学カップ」というブックフェアが開催されました。文学作品650点(すごい!)を作家の出身国や作品の舞台によって、53か国に編成され展示販売されたそうです(ちなみに日本は156作品)。
そこでなんとこの「観光」がMVPになったのです!

タイのホームラン王って
ことか
サッカーでいこうサッカーで

MVPといえば、中学MVP三井寿!
あの山王戦、白6番(松本稔)にプッシングされながら決めたあの3Pシュート。
それくらいMVPです!
だからサッカーでって

Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ
タイの国は能なしとガイジン、犯罪者と観光客の天国よ。
引用:「観光」(p95)
表題作「観光」で母がぼくに言った一言です。

なんだろう
染みました
色々
コメント