E pur la Terra si muove ~それでも、地球は廻っている
諸君はこの時代に強ひられ率ゐられて奴隷のやうに忍従することを欲するか むしろ諸君よ 更にあらたな正しい時代をつくれ
引用:宮沢賢治「生徒諸君に寄せる」

チ。第5集キャンペーンカードの言葉です
お母さま 宮沢賢治です


そして
一度見えた希望を失い、世界に絶望した人間は再び希望を求め意思を穿つことはできるのか?
引用:「チ。ー地球の運動についてー」(第3集 帯 背表紙)
さあ、この問いからスタートです!
Who are you? ~どんな内容?
41冊目はこちら。「透明を満たす」(講談社、2025年1月29日発売)です。
著者は渡邊渚氏。1997年4月13日生まれ。新潟県阿賀野市出身。慶應義塾大学経済学部卒。元フジテレビアナウンサー。現在はフリー。
「じゃあ今のあなたの肩書は?」と聞かれたら、「タレント、モデル、エッセイスト、経営者(自分の会社の代表なので)」と答えるだろう。マルチワークの時代だから、やりたいことをすべて仕事にして稼いで生活している。長く生きれば生きるだけ肩書なんて増える気もするし、そういうものに執着していくつもりもない。
引用:「透明を満たす」(p166)
本著は
第1章「これまで」(生い立ち 青春 社会人 闘病)
第2章「今と、これから」(生き方 日常 意見 メッセージ)
そして※92カットにも及ぶ、フォトが載せられています。
※フォトは、渡邊氏が映っているもの、文字も載せているもの、表紙も含め数えています。
この印象的な表紙は、本著にも85カット目で登場しております。

渡邊氏はじめ制作されてきた方々の中で イチオシのフォトなのだろうなと思いました
第1章「これまで」
第1章では「私を育んだ家族と故郷ー金色の稲穂と銀色の雪景色の中で」から「もう、諦めないーパリに向かった最大の理由」まで描かれています。
自分が立体的なものが好きだと気づいてからは、そういうおもちゃが欲しくなった。一番欲しかったのはトミカの立体駐車場。(中略)今の両親ならアップデートされていると思うが、「トミカは男の子の遊び」と言われて買ってもらえなかった。(中略)今でも立体が好きで、建築模型や帆船模型、ボトルシップを作る。小さいころから好きなものが変っていない。
引用:「透明を満たす」(p42~p43)
この箇所を読んだ後に気がついたのですが…

カバーを外すと、表紙と裏表紙に渡邊氏が描かれたかわいらしいイラストがあります。おお、これは…

透明を満たしているわアータ
それ以上はダメ


2023年6月のある雨の日、私の心は殺された。
引用:「透明を満たす」(p60)
渡邊氏に何が起きたのか。ここを知りたくて本著を手に取った方は一定数いらっしゃると思います。
Post-Traumatic Stress Disorder。略してPTSD。日本語では心的外傷後ストレス障害。仕事の延長線上で起きた出来事。渡邊氏は「私にとって一生消えない傷」とおっしゃっています。
正直私も、野次馬的な、とても下等な好奇心をもってページをめくっていました。しかし、この60ページ以降、その事象より以後渡邊氏の一変していく生活に触れ、私のそれは「加害者側」への軽蔑と怒りに変っていきました。
同時に渡邊氏が家族と故郷を「金色の稲穂と銀色の雪景色の中で」と表現した理由も理解出来ました。それは渡邊氏が突き落とされた「真っ暗で冷たい井戸」を濃く浮き上がらせるためだったのでしょう。
誰かの悪意。悪巧み。大事にしていたもの。戻る場所。そして視聴者の記憶。何よりも渡邊氏自身、元の自分を見失っていく。
そんなご自分を、渡邊氏は…
私は透明人間になった。
引用:「透明を満たす」(p68)
このように言い表します。そして、ご自身を自ら追いつめていく。ここの描写は壮絶です。

透明人間といえば…
怪物が主人公のコナーにした第三の物語を思い出しました。
むかしむかし、だれからも見えない男がいた。その男は透明人間だったわけではない。その男を見ないことにまわりの人間が慣れきっていたというだけのことだ。だれからも見られない人間は、果たしてー
ー本当に存在していると言えるのか。
引用:「怪物はささやく」(p184)
結局この男は、他人から見えるようになろうと、怪物を呼び騒動を起こします。

この男は主人公のコナーのことでした
この騒動の後、幼馴染のリリーはコナーに4行の手紙を書きます。
母さんのこと、みんなにしゃべっちゃってほんとにごめん
引用:「怪物はささやく」(p201)
コナーと友達でいられなくてさみしい
だいじょうぶ?
あたしはちゃんと見てるよ
誰からも見られず、やがてそれが当たり前になる。それはその場にいないことと同義である。そのような状態を「怪物はささやく」のパトリック・ネス氏も渡邊渚氏も奇しくも「透明人間」と述べているわけです。
コナーはリリーの手紙を読みました。そしてもう一度。

ご安心ください

渡邊氏にも「リリー」がいらっしゃいました
それも何人も!
「リリーたち」に支えられながらも、元に戻らない日常をあがいていく渡邊氏。その後、ネットニュースでも話題になった、バレーボールの試合観戦へパリオリンピックへ。
叩かれていましたね。随分ネットで。「裏切られた気分」とか。

何が裏切られた気分だ?
おzxcghjkl;¥!!!!!
お姉ちゃんおちついて

渡邊氏が何を思い、パリに向かったのか。
ここを読み終えた時、ほっとしました。
「今と、これから」
第2章では「死ぬ瞬間の5つの後悔」ー”高校生の自分”が教えてくれたこと から「病気になってよかったとは思わないーその先に見えた透明な世界」まで描かれています。
自分の手が誰かの救いになる、塞ぎ込んだ心に光をくれた言葉、夢を持つこと…
渡邊氏がパリオリンピック後の日々で得た、思いや感情が丁寧に記されています。
ここからが本当の「透明を満たす」かな、と思います。
それにしても、この本は透明を、様々な色で書き表している。それはまるでダイヤモンドのようです。ある一定の角度で、内部で反射が起きて、そして新たな光として解き放たれる。

なんとなくクリスタルみたいなものか

透明に近いブルーでもいいわよねアータ
しらん

ここからはエッセイのいたるところに現れる「透明」に注目してみます。
まず。
まえがきでは、限りなく透明に、素直に言葉にしてみます、と書かれています。これは色を付けるのは読者に委ねている、そんなメッセージが受け取れる。
そして、65ページでは透明人間という言葉を、すべて消えてなくなって、という意味で用いられています。これは存在価値が無くなる、ともすれば塗りつぶされる。まるで黒と同意義の透明である。
次に176ページでは、
あなたの人生はあなたのもの。誰にも奪えない。真っ暗な日々は永遠に続かないし、絶対に世は明ける。だから生きたい人生を諦めないで。幸せを頑張って生きて欲しい。
引用:「透明を満たす」(p176)
これが、透明人間になった渡邊氏が人生を振り返った時、透き通って浮かんできた言葉です。これは純白のイメージかな。汚れず、染まらず、自分は自分。
そして最終的に透明性の高い社会を望まれている。これはそのまま、透明。クリア。ガラス張り。その感覚で良いと思われます。
某会社への思いとも見て取れます


同じ透明でもニュアンスが
変る訳ねアータ
本当に聡明な方だと思います。文章に角が無い。スッと頭に入っていく。
「読者の皆様に届けー!」
引用:「透明を満たす」(あとがき)
届いてますよー!

I like you! ~紹介する理由
エッセイを書き上げた時間が3週間!
ご自身のこととはいえ、3週間で書き上げられた、とはとても思えません。特に第1章のあの雨の日からあとがきまでは、それこそセンシティブで少なくとも、様々な葛藤や抵抗があったのではないかと思いますが…
このインタビューを聞いて、改めて「血が通った言葉」で綴られた文章だなと感じました。
PTSDへの挑戦
光線過敏症、だけど屋外で、素肌を出されて。
「PTSDだから出来ない」という偏見に、まさに命を懸けて、笑顔で被写体になっていらっしゃる。
このインタビューを見た後に、今一度フォトを拝見すると、勇気がもらえます。
個人的には177ページ目の渡邊氏がただただ美しい。
このインタビューがそのまま紹介する理由になっちゃう

Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ
夢や目標を口にした時、周りから無理だと笑われたり、現実的じゃない、理想論だと言われたりすることもあるだろう。でも、そんな言葉には耳を塞いでいい。だって、夢も目標も理想も、掲げなければ始まらないから。どこかの誰かの何の責任もない言葉に惑わされないで。自分の生きたい人生を絶対に諦めないで。
引用:「透明を満たす」(p151)

これからもこのブログ続けるぞー!
渚さん無理しないで下さいね

La terra gira ancora oggi ~私は地球に生きている
ぼくはきっとできると思う。なぜならぼくらがそれをいま、かんがえているのだから。
引用:宮沢賢治「ポラーノの広場」
病気療養中なのにパリに行くなんておかしい。PTSDなのに人前で写真を撮られるなんておかしい。病人は黙って寝ていろ。SNSなんてやるんじゃない。
世の中は精神的にタフな「鋼メンタル」な人が称賛される。陽キャがもてはやされ、アウトドアな趣味を持つ人が健康的だと思われている。
通り一遍なその思考が、往々にして人を傷つけている。無知がどれほど罪か。
多分 感動は寿命の長さより大切なものだと思う。ーだからこの場は、僕の命にかえてでも、この感動を生き残らす。
引用:「チ。ー地球の運動についてー」(第1集 P142)
一度見えた希望を失い、世界に絶望した人間は再び希望を求め意思を穿つことはできるのか?
余計なものがなく、星の光と虫の音、炭の香りと雑味のない美味しさ、少し肌寒いけれどしっとりとした森を皮膚から感じて、私は地球に生きている、と思った。その瞬間、私の心はやっとオフになった。
引用:「透明を満たす」(p172)
渡邊氏はできると思います。

わんちゃら!はこれからも渡邊渚さんを応援します!
コメント