Are you okay ~失格していない 著作権フリーなだけ
もとより、太宰は、人間に失格してはいない。フツカヨイに赤面逆上するだけでも、赤面逆上しないヤツバラよりも、どれくらい、マットウに、人間的であったか知れぬ。
引用:「文豪たちの悪口本」(P87)
この発言の主は坂口安吾。太宰 治、織田作之助、檀 一雄ら戦後、すでに名が通った作家が送り出すリアリズムな文学の対角線上に立つ、反体制軍団「無頼派」の雄。
太宰よかったなあ 人間失格してないってよ!
ところで無頼派って何も頼らないとか言って結構 酒や女や薬に溺れる人たちよねアータ
やめろ
55秒31冊目 人間失格
後編スタートです!
「人間失格」は太宰が1948(昭和23)年3月7日から「熱海の三大別荘」の一つ、起雲閣別館にて「第二の手記」まで執筆。ちなみに起雲閣は現在熱海市所有の観光施設になっています。
その後三鷹の仕事部屋に移り書き続けますが、訪問客が多く執筆に集中できず、結核が悪化し不眠も手伝い体はボロボロだったそうです。見かねた筑摩書房の古田社長(当時)が、同郷の信州人であり、その人柄を見込んだ、天ぷら屋主人の小野沢氏宅に太宰を住ませ、より良い執筆環境を用意します。またこの大宮は結核治療が出来る病院が近くにあり、療養する場所としても最適でした(参考:【太宰治】『人間失格』を執筆した町、大宮|shige)。
ださいたま、は知っていましたが、だざいたま、まであるとは。
「人間失格」は筑摩書房の総合雑誌「展望」6月号に「第二の手記」まで、それ以降は太宰の死後に発表されました。そして2024年。発表から76年。いまや人間失格は近代文学の傑作として令和でも読まれ続けています。
ところで太宰の「人間失格」は筑摩書房が発売元だったのに、いまや多数の出版社から文庫本が出ています。
なんで?
これは著作者が死後70年経過すると、著作権がフリーになるためです。ちなみにミッキーマウスは2024年1月1日にて著作権フリー(しかし手袋をはめた今の現代版ミッキーは絶賛著作権フィールドを展開中)。
2025年はポパイが
著作権フリー
よく考えたら、五所川原市は斜陽館、三鷹市は太宰治文学サロン、大宮区は「人間失格」案内板。その作品は多くの出版社から発売され、アニメのキャラにまでなってしまいました。太宰が生きていたら何て言うだろう。それこそ、人生の余徳だよ君、と笑うに違いない。笑ってほしい。そう思います。
Who are you? ~どんな内容?
さあ いきましょう
千葉県船橋市に疎開している友人宅をたずねた「物書き」の私は、途中で或る喫茶店に入る。するとそこには私にとって古い知人、京橋のマダムがいた。やがて、小説の材料になるかも、と言って手渡されたのが、三冊のノートブックと三葉の写真だった。
その後友人宅に寄り酒を飲んだ私は、その晩、一睡もせずこの三冊を読みふけった。
次の日再び喫茶店に立ち寄り私はノートブックをしばらく貸してもらうことになる。
ここが全ての始まりだったわけね
「人間失格」の構成はこのような感じです。
・私という一人称による常体(である調)で書かれた「はしがき」
・自分という一人称による敬体(ですます調)の「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」
・私という一人称による常体(である調)で書かれた「あとがき」
かの有名な、私は、その男の写真を三葉、見たことがある、は「はしがき」の冒頭部分で、上記の「千葉県船橋市に疎開している友人宅をたずねた~」という箇所は実は「あとがき」に書かれています。
実は「はしがき」では三冊のノートブックの存在には触れておらず、「物書き」の私が写真を見た感想を述べているのみです。
一葉目。猿。少しも笑っていない。人をムカムカさせる表情。二葉目。学生の頃の写真。おそろしく美貌。そして三葉目。最も奇怪なもの。特徴が無い。ただもう不愉快。要するにこれが、それぞれの書記の表紙の写真、になるわけです。
この「はしがき」が持つ魔力は凄まじいです。何だ何だ?という好奇心をくすぐる言葉が怒涛のように押し寄せ、わずか4ページで、気が付いたら「人間失格」というライドに乗車しています。
「人間失格」というライド…
フッ
写真の男の名前は大庭葉蔵。東北地方出身。実家は資産家、大家族。職業漫画家。
「物書き」の私が読みふけった三冊のノートブック。それが「第一の手記」「第二の手記」「第三の書記」というわけです。そしてこれらの作成者。それが葉蔵。「第一の書記」からは葉蔵自らが書記を読んでいく、独白調で物語が進んでいきます。
「第一の手記」は幼少期が描かれています。最も苦痛なものは食事の時間。大家族ゆえ、うまく大人に甘えられない。そこで葉蔵は家族の顔色をうかがい、自ら道化を演じる日々を過ごし、何とかコミュニケーションを取る。でも無理している。ここまでが「第一の手記」となります。
葉蔵のひとたらしの原点がこの道化
「第二の手記」は中学校生活から上京、画学生の堀木正雄との出会い…そして金銭管理が出来ない葉蔵爆誕。お父さんのツケで生活してきたので、仕送りでやりくり出来ない…鎮静催眠剤ほしさに女をたぶらかす、酒の味を覚える、鎌倉の海にツネ子と飛び込む…そして身元引受人書画骨董商の渋田登場…
ちょっとまて渋田って誰?
ヒラメだよ
ヒラメ 渋田っていう名前だったんか
結局、自殺幇助罪とはならず、葉蔵は起訴猶予。葉蔵は検事局のベンチに座り、高い窓から夕焼けの空を見ていると…
鷗が、「女」という字みたいな形で飛んでいました。
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p76)
おい葉蔵 葉蔵 おい葉蔵 お前何やってんだよ 何やってんだよ葉蔵
第三の手記。ヒラメの愛のある説教を聞き、葉蔵脱走、そんな時に頼ったのが堀木。このころから堀木は葉蔵をこう呼ぶようになります。
「色魔!いるかい?」
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p96)
引用するところさっきから間違ってない?
そして甲州生まれ28歳のシングルマザーシヅ子&連れ子シゲ子と同棲、酒がとまらない葉蔵、そしてシヅ子の最終兵器「セッカチピッチャンみたいだね」な白兎の子が登場!要はシヅ子はペットを飼おうと持ってきた。白兎の子、ぴょんぴょん部屋をはね周る。
ここで、うわあ白兎の子だ、かっわいいなあ!今日からこの子も家族だね!なんて言えばいいのに、葉蔵はこの幸福を自分が滅茶苦茶にするのだ、と解釈し、神様、シヅ子&連れ子シゲ子を守ってくださいなんて祈りを捧げ、そして…
「わかれて来た。」
引用:「人間失格 KADOKAWA」(P103 )
京橋のすぐ近くのスタンド・バアの、あの「物書き」の私に三冊のノートブックを渡したマダムのところに転がり込みます。
その後、小さい煙草屋「信頼の天才」(要は超性善説者)17,8歳のヨシ子と結婚、しかしヨシ子が無学な小男の商人に襲われます。信頼は罪なりや?そして白髪になる葉蔵。
いや 助けなさいよ
ヴィタミンの注射液。カルシウムの錠剤。胃腸を壊さないようジアスターゼ…そしてモルヒネの注射液。ヨシ子と別れ、僕は女がいないところへ行くんだ、と言い、新たな女を騙し、薬でドロドロ。そこに現れたのが…
ヒラメ&堀木(withヨシ子)
彼らが葉蔵を連れて行った先が…
脳病院でした。
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p141)
精神科病院ね
嘆く葉蔵。ここに入ったらノーマルじゃないんだ!(そんなことないです)廃人という烙印を額に打たれるんだ!(いや、そのままいた方がやばかったですよ)そして、ついに…それでは皆様、ご唱和ください!
人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p142)
燃える闘魂じゃないんだから
その後葉蔵は東京を離れ、生まれ育った町から汽車で四、五時間南下した東北では珍しいほど温かい海辺の温泉地から、その村外れの古宅にて、六十に近いひどい赤毛の醜い女中と療養することになります。ちなみにこの家は葉蔵の長兄が用意しました。
女のひとが好きなのにひどい言い方ねアータ
そうだサンジを見習え!
ちなみに三葉目の写真はこの頃ですね
もう一葉の写真は最も奇怪なものである。まるでもう、としの頃がわからない。頭はいくぶん白髪のようである。それがひどく汚い部屋(部屋の壁が三箇所ほど崩れ落ちているのが、その写真にハッキリ写っている)の片隅で、小さい火鉢に両手をかざし、こんどは笑っていない。
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p9 はしがき 三葉目の説明部分)
で、葉蔵が療養していた家が…
かなり古い家らしく壁は剥げ落ち、柱は虫に食われ、ほとんど修理の仕様も無いほどの茅屋を買い取って私に与え、
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p143)
で、そのころの葉蔵の姿が…
自分はことし、二十七になります。白髪がめっきりふえたので、たいていの人から、四十以上に見られます。
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p144)
若い女と酒と薬が無い生活に絶望しきっているのねアータ
若い女と酒と薬があれば元気な葉蔵ちゃんに戻るんじゃないアータ
今まで何を読んできたんだアンタ
I like you! ~紹介する理由
「人間失格」は葉蔵が太宰のモデルと言われていますが、この作品にはもう一人、太宰が登場します。それが「物書き」の私です。つまり太宰が、客観的に、ああ、オレこんな人生送っちゃって嫌になるよなあ、小さい時なんて「たけ」(幼少期の乳母)しか甘えさせてくれなかったし、女と心中してもオレだけ生き残っちゃうし、嫌なことばっかだから眠れなくなるし、芥川賞とれないし…川端の野郎刺すぞあの野郎…借金もあるしなあ。
もう人間失格だなオレ…
そうなのです。
京橋のマダムが主観的な太宰の分身、葉蔵と客観視している太宰、すなわち「物書き」の私の唯一の接点となり、太宰が太宰を語るという、そんな作品…それが「人間失格」です。
一方で…
ともあれ、昭和十一年のパビナール中毒による精神病院入院は、自分に人間失格の烙印が押されたという衝撃を太宰に与えた。太宰は、その時の意味をいつかしっかりとらえて書かなければならぬと思いつづけていたようである。
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p180 作品解説)
つまり「人間失格」には、自分自身の半生と、「脳病院」に入院したという精神的ダメージのダブルミーニングが込められています。人間失格は太宰の入水後に第三の手記以降発表されていますので、遺書のように考えられておりますが、断じて違う!
そして敗戦の翌年、その執筆は具体的なスケジュールにのった。昭和二十一年一月二十五日付の堤重久宛書簡はいろいろな点で興味深い。まず、前年末ごろから始まった戦後日本への批判と自分の指針をまとめて述べている。そしてそのあとに、四十歳までの傑作とすべく「人間失格」を近く執筆する予定だと書いているのである。
引用:「人間失格 KADOKAWA)(p180 作品解説)
つまり「人間失格」は太宰が蝕まれていく体の声を聞き、もう長くないと悟ってはいたが、一方でリベンジの意味を込め、ちくしょう、せっかくだから書いてやるという反骨の意味合いで、しかしその緻密なプロットをその才気にて書き上げた、なるべくしてなった、確信的傑作なわけです。
間違いなく22世紀の未来人も読むでしょう!
構成がすごいの ほんとに
Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ
「私たちの知っている葉ちゃんは、とても素直で、よく気がきいて、あれでお酒さえ飲まなければ、いいえ、飲んでも、……神様みたいないい子でした。」
引用:「人間失格 KADOKAWA」(p149)
客観視してこれ書くのね太宰アータ
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