Who are you? ~どんな内容?
30冊目はこちら!「自殺帳」(晶文社、2023年10月12日発売)でございます。
著者は春日武彦氏。1951年京都府生まれ。日本医科大学卒業。医学博士。産婦人科医を6年務めた後に精神科医に転向。都立精神保健センターを経て、都立松沢病院精神科部長、都立墨東病院精神科部長、多摩中央病院院長、成仁病院院長などを歴任。甲殻類恐怖症で猫好き。
強引に言い切ってしまうなら、人間そのものに対する「分からなさ」が身の蓋も無い突飛な形で現出しているのがすなわち自殺ということになろう。
引用:「自殺帳」(背表紙裏」
自殺に関して思うこと、感じること、精神科医としての意見、文学的関心などをだらだらと書き連ねていきたい。
引用:「自殺帳」(背表紙裏」
また自身が出演された動画でこの本を書かれた理由を「(以前)ブログでこの作者はいずれ自殺するんじゃないか、と書かれた。そう言われると(自分に)何かあるのではないか?と気になった」「担当した患者の中で自殺した、思い出深い患者がいた。常にひっかかっていた。彼のことを追悼の意味を込めて」(参考:ニコニコ動画 深堀TV 2023年12月20日放送)とおっしゃっています。
ちなみに二番目の理由を話されている時に、お話をかき消すように救急車のサイレンが近づいてきます。
だから何よアータ
こういうの オカルト好きは気になるんですよ
春日武彦氏に関しては、だいぶ前になるのですが流行語「こじらせ女子」の生みの親、雨宮まみ氏が自身のブログでこうお話されています。
春日武彦先生の『鬱屈精神科医、占いにすがる』(太田出版)という本が出た。
「あの、明晰で、ちょっと皮肉屋で、占いなんていちばんバカにしてそうな春日先生(一部偏見です)が、占いに!?」
引用:「戦場のガールズ・ライフ」鬱病未満の鬱屈とした人生に
タイトルを見たとき、ものすごい不穏な空気を感じた。
ちょっとかわった
先生ってこと?
この本は精神科医である春日武彦氏が自殺に関する考察を巡らされています。春日氏が臨床医として経験した事例に加え、P112からは自殺を7つに分類化されています。
①美学・哲学に殉じた自殺。
引用:「自殺帳」(p112)
②虚無感の果てに生じる自殺。
③気の迷いや衝動としての自殺。
④懊悩の究極としての自殺。
⑤命の引き換えのメッセージとしての自殺。
⑥完璧な逃亡としての自殺。
⑦精神疾患ないしは異常な精神状態による自殺。
春日武彦氏はこの7つを「とりあえずはあえて分類しないと話が進めにくい」「どうせだめだろうけど面白味を加えて」分けたと説明されています(参考:ニコニコ動画 深堀TV 2023年12月20日放送)。
他方、先に参考にさせて頂いた動画でも触れられていましたが、厚生労働省「図表4-4-1 自殺者の年次推移」によるとその理由が健康問題、経済生活問題、家庭問題、勤務問題、男女問題、学校問題、その他となっています。まさにこっちがリアルジャパン7(高橋陽一先生ごめんなさい)。
その他も
メンバーなのねアータ
人によっては、あらゆる自殺は⑦でしかないと主張するかもしれない。
引用:「自殺帳」(p113)
この本では、実際の事例や小説などの創作物の中にある、あらゆるタイプの自殺の理由、動機、いきさつを精神科医が考察する、という内容なのですが、雨宮まみ氏が仰る「皮肉屋」的側面からかそこに意図的にユーモアを交えています。
例えば、この本には「はじめに」が2パターンあります。
こんなの、絶対別バージョン(2パターン目)が本当に春日氏が言いたいことで、これが正調な「はじめに」でしょうに、と思うのですが、色々な声を想定し1パターン目も載せたのだろうなあ、と感じました。以下、2パターン目の一部分を紹介します。
自殺に対するシリアスで真面目な意見を今さらながらに掲げてそれをアリバイとする気はない。したがって不謹慎だとか不真面目などと非難をするのが好きな人は、ここまで読んだ時点でそれ以上読み進めるのを中止していただけると有り難い。
引用:「自殺帳」(p012)
いいの?精神科のお医者さんがこんなこと書いて?
いいんです!なぜなら春日氏もご自身のことを、第四章でこう書かれています。
さらに申せばこの章を書き上げたあとは、わたしは物書きとしても精神科医としても(何の努力をしないにもかかわらず)一回り大きくなるのではないかと楽しみにしていたのである。
引用:「自殺帳」(p103)
そうなんです!春日氏は物書きでもいらっしゃるのです!
じゃあいいか!
物書きなら!
個人的にこの章で紹介されていた、マラソン・ランナーの円谷幸吉氏の遺書が印象に残っています。かの川端康成がこの遺書を絶讃されたそうです。
遺書を絶讃って…
どうなのそれ
I like you! ~紹介する理由
この本は何の予備知識もない中で手に取った本です。
実は春日武彦氏に関しては、職場の精神科医に薦められ、春日武彦氏「援助者必携 はじめての精神科 第2版」(現在は第3版が発売中です)を読んだことがあり、そこで知りました。
当事者の方やご家族と電話で話す機会が多いのですが、切電すると言いようのない疲労が襲ってきます(毎回ではありませんし、こちらの気持ちが軽くなることもありますが)。
そんな中、こんな言葉に出会いました。
電話相談はじつに衛生上よろしくない。
引用:「援助者必携 はじめての精神科 第2版」(p195)
相談をしてくる相手は自分の部屋という「精神的視野狭窄状態を助長させる」雰囲気から発信される。片や相談される(電話対応をする)人間は「妄想や悪意や自己中心性の前に」さらされ、しかも自分の方から切ってしまうことを「事実上許されていない」。
電話相談事業を実施するのであれば、それによってスタッフに及ぼす精神的疲労や、心の「すさみ」の重さを十分に考慮しなければならないだろう。
引用:「援助者必携 はじめての精神科 第2版」(p197)
この箇所は今でも私の拠り所です。実は諸先輩方、周囲他他職種の方、ここを指摘された方はいらっしゃいませんでした(本を薦めてくださった精神科医は理解していたと思いますが)。
この言葉を精神科医が発している。
これはでかい。
というわけで、医師でありながら他職種の気持ちも理解して下さる方です。
「自殺帳」そんな精神科医の方が書いた本です。
興味のある方は他の著作も調べてみて下さい!
Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ
もう、うんざりだ、こんな場所には一刻たりとも居たくない、と心の底から思った経験のある人は多いだろう。
引用:「自殺帳」(p256)
この書き出し最高!
こちらは第十章「自殺の七つの型-6 完璧な逃亡としての自殺」の冒頭部分。
何もかも嫌になった。もうやめたい。そんな方いらっしゃいますよね。
この章で紹介されている、カプリ島に移住する男の話も良かった。ネタはサマセット・モームの短篇「ロータス・イーター」から。
主人公である私は銀行員のトマス・ウィルソンという人物に出会います。ウィルソンは34歳の時に、妻と一人娘を亡くし天涯孤独となり、その年の夏休暇の際に訪れたカプリ島に魅了され一念発起、そこで35歳の時に「25年間保証の年金」を買い、銀行員を辞め、移住を決意します。
カプリ島に移住!
こんな会社辞めてやる!
ロマンやね!
要は「Financial Independence,Retire Early」ねアータ
教養アピールすな!
しかし60歳迎えた時には年金制度が終了し、生活費が無くなる。その結果、ウィルソンは現状から逃亡する形で自殺を試みますが…
おいウィルソン お前なにやってんだよ おいお前銀行員だろ おいウィルソン ウィルソン お前なにやってんだよ おいウィルソン トマス・ウィルソン
救いたいんですか?
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