Who are you? ~どんな内容?
23冊目は「生きる」(福音館書店、2017年3月5日発売)でございます。
著者は谷川俊太郎氏。1931年12月15日東京府豊多摩郡杉並町(現:東京都杉並区)生まれ。1945年5月25日の山の手空襲を体験、この年に京都府久世郡淀町に疎開され終戦を迎えます。1946年には杉並の自宅に戻り、1948年から詩作および発表を始められます。
生きているということ
引用:「生きる」(福音館書店 p2)
いま生きているということ
この言葉から始まる、生きるという意味、意義、味わい。誰もが知る、国民的な詩です。
「生きる」は元々詩集「うつむく青年」(山梨シルクセンター出版部 1971年)に収録。
ちなみに山梨シルクセンターは、山梨県の絹製品を販売する会社でしたが、次第に自社が著作権を持つキャラクターの開発を行うようになり、1973年4月に株式会社サンリオへ商号変更しています。ちなみに1974年にキティ・ホワイトが誕生!
生きるということ…
それはハローキティ
いらっしゃるでしょうね
その当時の表紙の帯が心を引きます。
どうやってわかちあうのか 幸せを
どうやってわかちあうのか 不幸を同時代に生きる者のかくされた怒りとゆきどころのない哀しみに深く共振しつつ、なおも一回限りの生の喜びと意味を手さぐりする三十三の詩と十の歌。待望の未刊新詩集。
引用:「うつむく青年」(山梨シルクセンター出版部 1971年)(表紙帯)
決して明るくはない。何かを突き付けられた、そんな感じです。
1971年刊行であれば「生きる」を作成されたのはもう少し前だったと思われます。谷川氏は太平洋戦争を生き、石原慎太郎氏、永六輔氏ら文学界の有志たちと60年安保闘争(日米新安全保障条約凍結に反対する国会議員はじめ、労働者や学生他が参加した大規模デモ活動)を経験されています。
そう考えると当時、谷川氏が発した「生きる」という言葉は、令和の時代より強く「死」を対角線上に意識したものであり、ゆえに「生」を唯一無二の、最高級の谷川俊太郎氏の言葉で表現した作品なのだと思います。
ここで紹介する「生きる」は1971年の発表以来、初めての絵本にされたものです。
絵は岡本よしろう氏。1973年山口県宇部市生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。絵画、立体、動画、インスタレーション(空間全体を作品として体験させる、現代美術の表現のひとつ)に至るまで幅広く活動されております。
「生きる」の後にお生まれになったわけです
この本はこの岡本氏の絵も本当に楽しめます。
小学生の姉弟が過ごす夏の一日。夕暮れ、お土産を持ったおじいさんが姉弟の家を訪ね、家族で楽しい夕食が始まりますが、何とこの日はおじいさんの…という展開。
逆じゃないアータこれ?
訪ねないアータ普通?
個人的に蝉の亡骸に始まる本編、そして裏表紙の幼虫の絵とここに「生」のサイクルが繋がっているのが好き。ちなみに蝉の幼虫は7年間地面で過ごす、は間違いで、ツクツクホウシで1~2年、アブラゼミで3~4年程度らしいです(参考:セミの幼虫は土の中に何年いる? 『プチペディア』で迫る、昆虫・植物・動物のヒミツ | アマナとひらく「自然・科学」のトビラ | NATURE & SCIENCE)
おい!セミ7年地面説!どっからの情報だったんだあれ!
その他 見どころです!
24ページでアーケード、2階の喫茶店で何やら頭を抱える男の人が描かれています。
同じく24ページで怒り心頭で階段から降りてくる女性が描かれています。その見開きの右側、25ページに…
自由ということ
引用:「生きる」(福音館書店 p25)
受ける
その他、
いまいまがすぎてゆくこと
引用:「生きる」(福音館書店 p31)
このページに描かれているバスの停留所の名前が「今町」だったり…
最初から登場する 公園で涼んでいるサラリーマンもお間抜けよアータ
まさに、神は細部に宿る、です。
I like you! ~紹介する理由
私、小学生の頃に「生きる」を初めて国語の授業で知りました。私の中で「生きる」の最初の記憶は、
それはミニスカート
引用:「生きる」(福音館書店 p13)
それはプラネタリウム
それはヨハン・シュトラウス
それはピカソ
それはアルプス
ここのミニスカートの下りを先生が音読していた時に聞えて来た、男子の笑い声です。
どうしようもないね
男子は!
もう何十年前の話です。
その後…
この福音館書店の「生きる」の41ページに谷川俊太郎氏が書かれた<いま>の意識というあとがきが掲載されています。ここに…
「生きる」と題された詩には、私たちの心を束の間立ち止まらせて、さまざまな<いま>の情景から、ふだんはことさらに意識することない視点で、人生を俯瞰して見直させる働きがあるのかもしれません。
引用:「生きる」(福音館書店 P41)
“現代最上大業物”の詩の性質を著者自ら明かされている。
「生きる」は
そういう詩なのね
そして、問題の?ミニスカートについてもこう述べられています。
「生きる」を書いたのはもうずいぶん昔の話です。まだミニスカートが新鮮に感じられたころで、若い女性の写真といっしょに雑誌に載ったのを覚えています。
引用:「生きる」(福音館書店 p41)
これは1967年10月18日に来日した、年に1000万ドル(36億円)を稼いだと言われる、イギリス出身のモデル「ミニスカートの女王」ツイッギー(Twiggy)の影響で巻き起こった、ファッションムーブメントを指しています。
さまざまな<いま>の情景のひとつだったんですね
ただ、その頃の熱狂を知らない人間が見ると、違和感を覚える。それがあの当時の男子たちの笑い声だったのでしょう。
まあ令和なら…
生きるということ
いま生きるということ
それは推し
それは盛り
それは映える
それはエモい
かわいいな令和
周りの人に生きるということってなあに?と聞いてみると結構面白い。
Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ
いまぶらんこがゆれているということ
引用:「生きる」(福音館書店 p28)
このフレーズの前は、産声が上がり、兵士が傷ついて、とまさに「生」に直結した表現でありますが、そのあとの、ぶらんこ。
かのんエモいわあ
「生きる」
あなたが一番、心に響くフレーズはなんでしょうか?
※ ※ ※
谷川俊太郎氏は2024年11月13日に老衰のため都内の病院でお亡くなりになりました。末筆ながら、故人様のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
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