【55秒書評】「地面師たち」

【55秒書評】

Who are you? ~どんな内容?

12冊目は「地面師たち」(集英社、2019年12月5日発売)でございます。

著者は新庄耕しんじょう こう氏。1983年、京都府生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年、第36回すばる文学賞を受賞された『狭小邸宅』にてデビューされます。本作は『小説すばる』2019年1月号から10月号に連載され、同年12月に集英社から刊行されました。2022年1月に文庫化、2024年7月25日にはドラマとして配信がスタート。さらに新作『地面師たち ファイナル・ベッツ』が2024年7月26日に発売されたばかり!

地面師とは、土地の所有者になりすまして、不動産会社等に売却を持ちかけ、売買契約、決済、その後所有権の移転等の末、多額の代金をだまし取る詐欺を行う者を指します。

この物語は2017年に実際起きた、積水ハウス地面師詐欺事件がモチーフになっています。

個人的にこの手の「モチーフもの」系小説(命名センス)、手が止まらなくなって困る。

例えば(記載順は実際の事件が発祥した年から)

・横溝正史氏『八つ墓村』(1938年/津山事件)
・塩田武士氏『罪の声』(1984、85年/グリコ・森永事件)
・山崎豊子氏『沈まぬ太陽』(1985年/日本航空123便墜落事故)
・角田光代氏『八日目の蝉』(1993年/日野不倫殺人事件)
・池井戸潤氏『空飛ぶタイヤ』(2002年/三菱自動車製大型トラックの脱輪による死傷事故および三菱自動車によるリコール隠し事件)

ノンフィクションとの境目、その曖昧な世界に漂い、そして伏線の回収が現実と符合するゆえの説得力を生み出し、結末に至るまでの著者の解釈に酔う!

ハイブリッドな感じが最高!

ココ
ココ

物語は地面師たち(要は詐欺グループ)が市場価格100億円という泉岳寺駅至近の広大な一等地の駐車場と、そこに隣接した元更生保護施設に狙いを付けて…というお話です。

物語の視点は、ある事件で妻子を亡くした辻本拓海と定年間近の老刑事であるたつ、石洋ハウス常務取締役兼開発本部長青柳隆史あおやぎたかしの三者間で切り替わります。

拓海の視点が大部分を締めますが、葛藤や悔恨、そして怒りと移り変わる感情を地面師としての活動を通じ、見事に描写されています。

辰は、何だろう。結構よく見る設定(失礼!)のように感じましたが、逆に、こうでないとハリソンとの因縁、拓海の過去までカバー出来ないので、人生の悲哀を加え、やはりこれがマストなのでしょう!

青柳の最初の視点では、注意深く読まないと「あれこれ誰」になります(私だけ?)。ただしここで青柳が最終的に取る行動の潜在的動力がきちんと説明されています。

かのん
かのん

小説は油断できない読み物ですね!

この三者の人生が地面師のリーダー、ハリソン山中によって翻弄され、それぞれの思惑が100億円の土地を巡って交錯します。

令和に新たなダークヒーロー、爆誕!

I like you! ~紹介する理由

新庄耕氏の土地狂ってる筆力!これに尽きる!

〖土地狂ってる筆力①〗
石洋ハウスとのラウンジでの面会。ここからのヒリヒリ感たるや。拓海らと一緒になって「ヤバいヤバい」ってなりました。追い立てられる気になります。タイムイズマネー!

〖土地狂ってる筆力②〗
表現の豊かさ。作品テーマから「都会」なのですが、全く真逆の「自然」を描かれている場面があります。聞いたことのない言葉も出てきて、目の前にさーっと風が吹き抜ける感じがする!

〖土地狂ってる筆力③〗
ある人物と人物との友情。この物語は基本「弱き者は食われてしまえ。」なのでカラカラに乾いていますが、この友情のシーンは別。水槽の微妙な均衡、痙攣しない頬、身内だけの簡単な式…涙

Present for you💐 ~揺さぶるフレーズ

白紙で結構です。

引用:「地面師たち」(P270 集英社文庫)

うまい。気持ち、めちゃくちゃ伝わる。
未読の方は「何のこと?」なんでしょうが。

白紙は普通0点ですが
これは100点ですね!

ココ
ココ

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